
厚生労働省の発表によると、3月5日時点での新型コロナウイルスの感染者数は331名、死亡者数は6名、世界においてはWHOの発表によると、3月4日時点で感染者数は92,100名、死亡者数は3,186名。
同時にアメリカではインフルエンザの猛威により1万人以上の方がお亡くなりになっています。
重症の方は一刻も早く回復されることをお祈り申し上げるとともに、お亡くなりになられた方、そのご家族にはお悔やみ申し上げます。
新型コロナウイルスによる直接的な問題だけではなく、輸出入の遅延、旅行の自粛、イベントの休止、学校の休校など、経済にも教育にも大きな影響が出始めています。
同時にトイレットペーパーの買い占めや「〇〇が新型コロナウイルスに効く」といったデマ情報も社会問題となっています。
新型コロナウイルスがここまでパンデミックになってしまった原因は、紛れもなく「新型のウイルスであって、予防薬もなければ治療薬もなく、体内に抗体もない」という対策の取りようがないことです。
インフルエンザに関しては、予防薬もあり治療薬もあり、予防グッズが山のように溢れているにも関わらず、毎年、羅患者数が増加しているのは、毎年ウイルスの抗原性が少しずつ形を変えているからです。
では、体内に抗体がないウイルスが入り込んだ場合、誰もが感染してしまうのか、と言えば決してそうではありません。
感染するかしないかの可能性は、その人の免疫力に大きく左右されます。
そのため、新型のウイルスが生じてから右往左往するのではなく、日頃から免疫がいつでも働きやすい環境にしておくことが大切で、それには免疫について理解を深めておくことが欠かせません。
3分で分かる免疫のメカニズム
今日も体内にウイルスや病原菌などの外敵がいないかをパトロールする自然免疫チームの樹状細胞くん。パトロール仲間は、外敵や死んだ細胞を食べて掃除するマクロファージさん。
樹状細胞くんとマクロファージさんが外敵を発見!
すると、マクロファージさんは同じチームの顆粒球くんに攻撃するよう頼みます。
傷などによる細菌類は顆粒球くんの攻撃で事足りてしまいます。
細菌類よりも強敵であるウイルスや病原菌であった場合、樹状細胞くんが「どんな敵か」という情報をもって、獲得免疫チームのヘルパーT細胞さんに助けを求めにいきます。
獲得免疫チームの攻撃は、ヘルパーT細胞さんの命令によって二手に分かれます。
1つが液性免疫と呼ばれる攻撃で、ウイルスや病原菌そのものを攻撃するようBリンパ球(B細胞)くんに命令します。この時、樹状細胞くんの情報にもとづき、ヘルパーT細胞さんが武器(抗体)を作り、これで攻撃するようBリンパ球くんに渡します。
2つ目が、細胞性免疫で、ウイルスや病原菌に侵されてしまった細胞を攻撃するようキラーT細胞くんに命令します。
自然免疫チームには、NK細胞くんもいますが、一匹狼で、自らパトロールしつつ、外敵がいれば、誰からの命令も受けることなく戦います。
この素晴らしい免疫の連携を実現しているのが「情報を伝える」「命令する」といった会話です。しかし、体内の細胞たちは会話ができるわけではありませんので、会話の役割を果たしているのが、サイトカイン(炎症性サイトカイン)というたんぱく質です。
マクロファージさんが顆粒球くんに「ここに来て」と攻撃を頼む際に“場所”を伝えるために炎症性サイトカインによって炎症を作り出し、場所を特定させます。
また、ヘルパーT細胞のBリンパ球やキラーT細胞への命令にも、炎症性サイトカインが使われるだけでなく、攻撃場所でBリンパ球やキラーT細胞が頑張るための“栄養素”にもなります。
風邪は喉と鼻の炎症。発熱は全身の炎症。つまり、ウイルスや病原菌、細菌の侵入によって炎症が起こるのは、この会話によるものです。
「免疫がいつでも働きやすい環境」にするためにできること
- 栄養のあるものを食べる
- 栄養のバランスを考える
- 入浴により体温を上げる
- 適度な運動で代謝を上げる
- しっかりと睡眠をとる
- ストレスを溜めないで、自律神経を整える
- 腸内環境を整える
これらが、「免疫力アップ」と称して一般的に言われていることですが、実はどれも明確な根拠(臨床試験や論文)があるわけではありません。
なぜならば、免疫を担う白血球やリンパ球の数は測定することができますが、それ自体が免疫力を示すものではないため、医学的に免疫力が上がった下がったを示せる数値が出せないからです。
そのため、わたしたちが、新型のウイルスやインフルエンザに負けない体を手に入れるために“できること”は、免疫力を高めると称することではなく、免疫がいつでも働きやすい環境にしておくことです。
そのためには、免疫のメカニズムの観点から4つのことが挙げられます。
常に血液をキレイな状態にしておく
パトロール役である樹状細胞もマクロファージも、顆粒球も活動場所は血液です。
道路で渋滞が発生していたり、路上駐車が多ければ、救急車の通行の妨げになってしまいます。
それは血液にも言えることで、血液における通行の妨げとなるのが過酸化脂質です。サラサラな血液・ドロドロの血液という表現がありますが、これは血液中の過酸化脂質の量によって決まります。
過酸化脂質とは、血中脂質が活性酸素によって酸化されることによりできる物質で、血管の内腔を狭くして、血液の流れを悪くします。
そのため、油っこい食事や脂質過多な食べ物を控えたり、常に活性酸素を減少させておくことが重要です。
腸内細菌を活性化させる
「腸の善玉菌を増やす」「腸内環境を整える」といったことが免疫力を高めると言われていたりしますが、それよりも重要なことが腸内細菌を活性化させることです。
近年の研究で、腸内細菌と免疫細胞(特にT細胞)は密接な関係にあることが分かっています。
腸内細菌を活性化させるためには、食物繊維の摂取が欠かせません。
細胞を傷つけない
樹状細胞もT細胞もB細胞もその名のとおり「細胞」です。
細胞の成分は70%が水分で、次いで多いのが15%のたんぱく質です。活性酸素は、このたんぱく質を変性させ、さらに細胞の中にあるDNAを損傷させてしまいます。
そのため、免疫を担う大事な細胞たちを常に良い状態にしておくためには、体内の活性酸素と抗酸化物質のバランスを整えて、酸化ストレスの状態にしないことです。
免疫細胞に無駄な情報を与えない
免疫を担う細胞たちの会話や場所の特定、さらには攻撃を頑張るための栄養素として重要な役割を果たすのが炎症性サイトカインです。
樹状細胞やマクロファージが外敵を見つけると、細胞膜にある受容体が外敵を分析します。
受容体が働き出すと活性酸素が産生され、その活性酸素によってASK1というたんぱく質リン酸化酵素が活性化され、それによって炎症性サイトカインが産生されます。
この場合、活性酸素は炎症性サイトカインを作り出す重要な役割を果たすわけですが、体内に活性酸素が多い酸化ストレスの状態だと、不必要な場所にまで炎症性サイトカインが作り出されることになってしまいます。
つまり、体内で無駄に活性酸素が発生している場合、至る所で炎症性サイトカインが作られてしまい、ひいては大事な時に炎症性サイトカインを作る能力が落ちてしまうことになります。
「水素水の飲用・水素ガス吸入は免疫力をアップさせる」というのは紛れもなくデマ情報です。
しかし、免疫のメカニズムの理解を深めると、免疫がいつでも働きやすい環境にするためには活性酸素を常に減らしておく必要があることが分かります。
水素ガス吸入をしていると「風邪をひきにくくなった」「インフルエンザにかからなくなった」という声を聞きます。
それは、免疫力がアップするからではなく、しっかりとした別の根拠があったということなのですね。